2011年9月25日日曜日

Gamasutra 記事翻訳:ケーキは嘘じゃない:効果的な実績をデザインする秘訣 パート 3

はじめに

以下は Gamasutra の Features として公開された記事のうち、原著者に翻訳・公開の許可を得られた記事を Internationalization Force のメンバーが翻訳したものです。

  1. 原文の著作権等はすべて原著者に帰属します。
  2. 誤訳、誤植がある可能性があります。発見された場合は当記事のコメント欄にてお知らせいただければ幸いです。
  3. 本記事の公開を快諾してくださった Lucas Blair 氏に深く感謝します。

なお本記事は 3 部構成で、それぞれこちらから御覧いただけます。

ご意見ご感想などございましたら Twitter ハッシュタグ #igdajif までお寄せください。今後の活動の励みとさせていただきます。




ケーキは嘘じゃない:効果的な実績をデザインする秘訣 パート 3

著:Lucas Blair




[研究者でありゲームデザイナーでもあるルーカス・ブレア博士が、ゲームの実績デザインにおけるベストプラクティスの定型化に役立つ現代の学術研究の基礎を示す、全 3 回にわたる連載。今回はその最終回である。パート 1 とパート 2 の原文はこちらから、日本語版は上記を参照されたい]


始めに、本連載の概括から述べよう。第 1 部で述べたとおり、現在さまざまなテーマを扱った数多くの研究が行われており、それらは実績のデザインの指針となり得る。本連載で、私は現在ゲーム内で実績がどのように用いられているかを分析することで実績デザインの特徴を分類し、それを共有しようと思う。


本課題の目的は、実績のデザインからアクションのメカニズムを抽出することだ。実績についてはこれまでにも、プレイヤーのパフォーマンス、モチベーション、態度に影響するという研究結果が出ている。


今回、分類については可能な限り包括的になるよう努めたが、今後さらなる議論や改訂も必要になるだろう。しかし当面は、実績の可能性を効果的に引き出すために必要となる議論の良い叩き台になると考える。


本連載のパート 1 と 2 の内容は大筋において抽象的で、扱ってきた内容もパフォーマンス測定やプレイヤーのモチベーション、情報の提示方法など多岐にわたっていた。 このためパート 3 では、これまでに触れてこなかった、特定の種類の実績と、その潜在的な利用方法について検討していきたいと思う。


第3部では、次のコンセプトについて言及していく。
  • 否定的な実績
  • 通貨としての実績
  • 累積型 (Incrementalを意訳) 実績とメタ実績
  • 競争型の実績
  • (非競争型) 協力型実績

否定的な実績

通常、実績はプレイヤーが特別で肯定的なことを成し遂げたときに付与されるが、中には極端にひどいパフォーマンスに対して贈られる、全く正反対の条件で解除される実績も存在する。このようにプレイヤーが盛大に失敗したときに付与される実績が、「否定的な実績」である。Command & Conquer 3」で公式ランキングの順位で20位以上離れた格下の相手に負けると解除されるものや、PS3 版「God of War」で指定回数連続して死亡すると付与される「継続は力なり (Getting My Ass Kicked)」トロフィーなどがこれにあたる。


否定的な実績は、デジタルな傷口に塩を塗りこむようなものである。この種の実績は、獲得したプレイヤーの競争心や主体性を損なうもので、最終的に遊んでいるゲームの充足感を損なうものである。プレイヤーは、遊んでいるゲームに否定的な実績が含まれることを知るとできる限り避けて進めようとする。そして避けようとする気持ちを終始払拭できずに遊ぶことになり、最終的には疲弊してゲームを十全に楽しめなくなるのである。


また否定的な実績は、ゲームのデザインフローと相まってさらに負のコンボを起こす。稚拙なレベルデザインや有効に機能していないゲームメカニクスのせいで死に続けたプレイヤーは、「ヘタクソー!」と言うかのような実績を冷静に受け取ってはくれない。このような場合、プレイヤーは自身の技能ではなくゲーム自体を責めることになる。


ベストプラクティス: 否定的な実績は使わない。手こずっているプレイヤーの助けとなるようなフィードバックを提供するシステムを作る。

通貨としての実績

獲得した実績は、時にゲーム内の仮想通貨として使用されることがある。この種の実績はポイントやコイン、スターといった形式でプレイヤーに付与され、ゲーム内アイテムや現実のグッズ購入に用いられる。小額決済モデル (訳注:いわゆる "アイテム課金") を採用したゲーム、例えば「League of Legends」ではゲームを遊ぶことで時折獲得できる第二の通貨が存在する。


実際、実績というのは仮想通貨にうってつけだ。輝かしき記録であり、既定の要件をクリアする必要があり、プレイヤーはすでに重要なものとして認識しているのだから。しかし、実績を通貨として使用することは、プレイヤーに対してさまざまな影響を与える。


「あるパフォーマンスの報奨として通貨を与える」行為については、じつにさまざまな調査が行われている。たとえば、通貨の報酬は物品的な報酬よりもタスクに対するパフォーマンスへの影響力が大きい。これは、通貨のほうがプレイヤーの自由度が高い (何を購入するか決定できる) からだと推測される。何を適切な報酬とするか? その決定の責任を負うのはデザイナーだ。


最近では、一部の学校組織が通貨の報酬を用いて一定の成果を上げている。一部のケースでは、通貨的報酬を提供したことでクラス出席率やテストの成績、果ては登校率までが向上したという。なお、別の研究でも同様の効果が報告されているが、この場合、向上が見られたのは報酬が「インプット」に関連付けられている時だけだった (アウトプット」と関連付けられている場合には効果が見られなかった)。これは「規定以上の成績を獲得した」(訳注: = アウトプット) などではなく「何時間勉強したか」(訳注: = インプット) のような行為に対して報酬を与えられた場合、という意味だ。ここで肝となるのは「学生が良い就学姿勢を見せたら報酬を渡すことで、成績は後からついて来る」という考え方だろう。


通貨的報酬に関する議論でよく議題となるもうひとつの事項は、物品的な報酬のそれと共通している。すなわち、「通貨的報酬は報酬を受け取る側の本質的なモチベーションを低下させる」ということだ。プレイヤーは最終的に、ゲームよりも報酬システムを意識するようになってしまうのである。この種の報酬システムを最大限活用し、プレイヤーを退屈なタスクに没頭させているゲーム会社は 1 社ではない。通貨システムは、他の報酬プログラム (Reward Program) と同様、報酬がプレイヤーの関心を集めすぎてしまう結果、プレイヤーのクリエイティビティを弱めてしまうことが多い。


ベストプラクティス: プレイヤーに通貨的報酬を提供する場合はタスクが完了した時に提供するようにし、多大なコントロール感 (訳注: 自分の判断に基づく行動が予期した結果を生み、自分にとって望ましい状況を作り出せた、という感覚) を与えないようにする。また、通貨システムはゲームを補強するために用い、その通貨の獲得がプレイヤーがゲームを遊ぶ主目的にならないようにする。


累積型実績とメタ実績

通常、実績はひとつのタスクを完了したときに獲得されるものだ。しかし累積型 (Incremental) とメタ実績 (meta-achievement) は、複数のタスクを完了した時に獲得される。


累積型実績は、一定の難易度が生じるまで同一タスクを何度も行うことで付与される実績だ。例としては、FPS で敵のキル数が 250、500、1000 に達した時に解除されるものや、「FarmVille」で違う色のリボンを集めた時に解除されるものなどがある。


メタ実績は異なるタスクを完了することで得られる実績を複数集めた時に解除される実績である。たとえば「World of Warcraft」で "Chef (シェフ)" という称号を手に入れるには、料理関連の実績をすべて獲得する必要がある。


この 2 種は両方とも、指導上の「土台」または「補助輪」として使うことが可能である。これらは一見すると複雑なタスクに見えるが、細かく分解していくとトレーニングプログラムのように構成されている。

また「タスクを細かく分解する」ことで、プレイヤーがその後より複雑なタスクに直面した時に、構造を把握しやすくなるという利点もある。


通常、累積型実績とメタ実績は獲得するまでに長い期間を要する。長期的な報酬制度のようなものだとも言えるだろう。そして長期的な報酬制度は、(単一のアクションで解除される) 短期のものよりもパフォーマンス向上を引き出す効果が強いというデータがある。また長期的な目標を設定することで、プレイヤーがそれを達成しようとしてゲームを長時間遊ぶ、という利点もあるだろう。


一方でこの種の実績には、潜在的な欠点もある。プレイヤーが、自分では何も決められず、目の前に撒かれたパンくずを追いかけているだけだと感じると、自主性が失われてしまうのだ。だからこそ、実績の数、間隔、そして用意するチャレンジのボリュームには細心の注意を払うべきなのである。

ベストプラクティス: ここで紹介した 2 種の実績は、プレイヤーの関心を長期間にわたり維持したり、関連するアクティビティへと導いたりする際に使う。累積型実績は時間的にも距離的にも充分な間隔を持たせ、プレイヤーが「コントロールされている」と感じさせないようにする。

競争型の実績

競争型の実績は、直接的または (あるタスクのスコアなど) 間接的な方法で他のプレイヤーと対決する必要がある実績だ。この種の実績は、個人で、またはチームで協力して対戦相手を倒すことで獲得できる。


ある調査では、指定された任意のタスクに対する総合的な満足感は、競争によって向上するという結果が出ている。競争で優れた結果を出すことは内発的動機づけの強化につながるというのはこれまでにも証明されてきている。これはプレイヤー自身の競争力に対する意識を高めるためだ。また、競争が求められる環境も、繰り返し行われる単一タスクのパフォーマンスを向上させる効果がある。


特にコンピューターサイエンスのクラスでは、クラスをより盛り上げるために競争の要素を組み込み、成果を上げている。


だが「競争のある環境」は、肯定的な結果を示す調査はあるものの、特定の状況では競争は避けるべきだとの結果を示している調査も存在している。


たいていの場合、競争的環境は学習プロセスを阻害する傾向がある。理由の一つには競争的環境では利己的行動に走りやすく、また他者を手助けしにくくなることが挙げられる。また競争は、学習者の自己効力感 (訳注: 「自分は達成できる」という自信) に好ましくない影響をもたらすことも分かっている。これはつまり、プレイヤーが自身やチームメイトに厳しくあたることを意味する。勝負に負けた場合にはその傾向はより一層強くなる。


高いスキルを持つプレイヤーは競争的環境を好み、また先述の好ましくない要素の影響もあまり受けない傾向にある。ゲーム自体に慣れているため、競争要素が加わったとしても多大なストレスを受けないのだ。


この他、配慮が必要となるのが各プレイヤーのモチベーションだろう。実績に対するモチベーションの高いプレイヤーは競争型タスクを比較的楽しむし、モチベーションの低いプレイヤーに比べて内発的興味 (intrinsic interest) も高い。一般にゲーマーは、実績に対する総合的なモチベーションは高いが、これはゲームの種類によって大きく異なる。つまりターゲット層をよく理解し、実際に遊ぶプレイヤーにとって最も「気持よく遊べる」環境が何かを理解することが肝要と言える。


ベストプラクティス: 競争型実績をゲームで使う場合は、プレイヤーがゲーム自体に完全に慣れて、これ以上新要素を学習しなくて良い状態で導入する。

(非競争型) 協力型実績

協力型実績は、ゲーム内の目標を協力して達成するプレイヤーが獲得する実績である。この種の実績は多くの場合、他のプレイヤーとやりとり (intaract) が発生するマルチプレイヤーモードで用いられる。グループ向けタスク (モンスターを倒すなど) の報酬や、マルチプレイヤーゲームに組み込まれてチームワークの醸成支援 (FPS でキルアシストを 1000 回行うなど) などがこれに当たる。


多数の調査でも、協力型環境はパフォーマンスを向上させるとの結果が出ている。ピアモニタリング(訳注: 原文は "Evaluating Peers = "ピアの評価時"、内容から "Peer Monitoring、同種の活動を行う関係者間の相互評価と判断) においては、協力型環境というのは学問的達成や自尊心の向上、積極性の増進などと関連付けて考えられている。チームワークを要求する報酬制度は、個人単位でのそれと比較してパフォーマンス向上効果が非常に高いのである。


この他にも、協力プレイには「一人では達成できない、バラエティに富んだ目標を提供できる」という素晴らしい利点がある。この利点を有効に活用するには、ベテランプレイヤーが経験の浅いプレイヤーと関わりを持つようにするよう実績をデザインするべきである。


City of Heroes」の助手 (Sidekick) システムはこの良例だ。調査の結果でも、職場でメンター (Mentor) を割り当てられた見習いは、そうでない者と比較して出世率や仕事に対する満足度が大幅に高いという結果が出ている。またこの種のシステムでは、メンター自身もパフォーマンスや社会的地位の向上といった利益を享受できる。


このように多くの利点がある協力型のしくみだが、それでも関連リスクというものは存在する。そのリスクのひとつがグループ間での態度のかたよりだ。これが生じた場合、全体の意思決定がおかしな方向へ進むことが多い。このような状況になると、個人であれば絶対にしないようなお粗末な決断をチームとしては下す、というようなことが発生する。


この他、「プロセスの損失」(Process Loss、集団に期待される効率水準と実際の遂行の落差) も時に問題となる。これはコミュニケーションや手助けに余分な労力が必要になり、チーム全体のパフォーマンスが落ちるために生じる問題だ。ゲームでは特に、技術的な制限からコミュニケーションの問題で「プロセスの損失」が生じやすい。これは MMO のレイド (Raid) 時に、グループメンバーの一部がボイスチャットできない場合を想像すると分かりやすい。


この他、グループの規模によって生じる問題には「社会的手抜き」(social loafing) がある。大規模グループでは各人のパフォーマンスが可視化されず、そのため目標達成に向けた努力をしなくなる状況が起こりやすい。「社会的手抜き」はそのような場合に発生する問題だ。


ベストプラクティス: 協力的環境を育むには、習熟度の高いプレイヤーが低いプレイヤーを助けると付与される実績を用意するという方法がある。協力型実績で対象とするグループは比較的小規模に抑え、「社会的手抜き」や「プロセスの損失」を減らす。 実績獲得の評価基準は、グループという環境の中で各人が残すパフォーマンスを評価するものにする。


以上



<<著者あとがき>>


本稿が、今後さらなる研究が望まれる「実績」というかなり複雑なテーマにいくばくかの光を当てられていれば幸いです。なお本稿を書くにあたり、様々な研究分野の結果を拝借してゲームデザイナーが使いやすいように変形させる必要がありました。これはこの種の概説における課題の一つと言えると思います。


RETRO lab では、本稿で触れたいくつかのトピックの関連事項のうち、実績デザインに関する理論を強固にする上で必要となる「実績の分類」について研究中です。具体的には、ゲーム内で種類の異なる実績を入れ替えてプレイヤーに与える影響を評価したり、楽しさの度合い (Amount of enjoyment) やプレイに費やした時間といった要因を検証したりしています。


なお、ラボでは、本研究の結果は明らかになり次第、顕著な成果について継続的にゲームコミュニティーに向けて公開していきます。過去数週間にわたり、コメント・意見をお寄せ下さりありがとうございました。今後も引き続き実績のデザインに関する活発な議論がなされ、そのきっかけとして本稿が多少なり貢献することができれば、これに勝る幸せはありません。


本稿を執筆するに当たり、指導にあたってくださった Dr. Clint Bowers、ならびに協力してくれた James Bohnsack、Katie Procci、RETRO Lab のメンバーに感謝の意を表します。


各トピックの詳細に関する資料:

  • Deci, E. L., & Cascio, W. F. (1972, April). Changes in intrinsic motivation as a function of negative feedback and threats. Paper presented at the meeting of the Eastern Psychological Association, Boston.
  • Stajkovic, A. D., & Luthans, F. (2001). Differential effects of incentive motivators on work performance. Academy of Management Journal, 44(3), 580-590.
  • Condly, S., Clark, R. E., and Stolovitch, H. S. (2003). The effects of incentives on workplace performance: A meta-analytic review of research studies. Performance Improvement Quarterly, 16(3), 46–63.
  • Fryer, Roland. 2010a. Financial Incentives and Student Achievement: Evidence from Randomized Trials. Working paper, Harvard University.
  • Amabile, T. M., Hennessey, B. A., & Grossman, B. S. (1986). Social influences on creativity: The effects of contracted-for reward. Journal of Personality and Social Psychology, 50(1), 14-23.
  • Reeve, J., & Deci, E. L. (1996). Elements of the competitive situation that affect intrinsic motivation. Personality and Social Psychology Bulletin, 22(1), 24-33.
  • Lam, S., Yim, P., Law, J. F., & Cheung, R. Y. (2004). The effects of competition on achievement motivation in Chinese classrooms. British Journal of Educational Psychology, 74(2), 281-296.


ようやく翻訳完了です。本翻訳記事が皆様のお役に立つことを祈りつつ、今後も各種活動進めていきます!
ご意見ご感想は #igdajif までお寄せください。活動の励みにさせて頂きます。


翻訳担当メンバー:

矢澤 竜太(ヤザワ・リュウタ)

元フリーランス英日ゲーム翻訳者、現在はゲーム開発業界一年生でローカライズ業務に奮闘中。IGDA Japan i18n Force (Internationalization Force) 代表。
愛のあるゲーム人を応援するためボランティア翻訳してる。今年も CEDEC アツかった。今度は GDC でローカライズ成功事例の講演だ (目標)! / Twitter: lye_

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